職場復帰を果たした私は、“母親のリアルな感情”という武器を手に入れました。妊娠・出産を経て、コピーライターとしての表現の幅が確実に広がったのです。私が担当していた教育系企業さんのメインターゲットは、小さな子どもを持つお母さん(つまり私)。自分のリアルな感情をそのままコピー化し、誰よりも情熱を持って提案できる説得力は、経験者ならではの強みになりました。新たな受注案件が舞い込んでくるようになったのもこの頃。しかし、時短勤務だった私が残業を重ねるようになったのは言うまでもありません。親の協力のおかげで、なんとか乗り切りましたが。 担当クライアントの信頼を得て案件を獲得していく喜びを感じつつも、すでにアラフォーだった私は、この頃から第二子を考え始めていました。復帰1年後のことです。職場に再び迷惑がかかることは百も承知でしたが、娘にきょうだいを作ってあげたいと思っていた私に迷いはありませんでした。ほどなくして妊娠。嬉しくてたまらなかったけれど、会社ではいろんな方に「すみません」と平謝りをする日々。 これって本当に難しい問題ですよね。私には20代の頃から「コピーライター(クリエイター)は一人前になるまで結婚も出産もしないほうがいい」という持論がありました。中途半端なまま出産してブランクが空いてしまうと、それまで積み重ねてきたスキルがムダになる可能性があると思ったからです(実際に、揺るぎないポジションを獲得してからの方が絶対に復帰しやすいと思う)。なので、私的には一人目の出産も二人目の出産もベストなタイミングだったのです。
2015年12月、第二子の長男が誕生。今回は、出産前に保育園の申し込みを済ませていたので、4月には入園できる運びに(実際に通い始めたのは、首が完全にすわった5月末頃)。長女が先に入園していたので保育士さんへの安心感もあり、仕事復帰はかなりスムーズでした。 ただ2回目の復帰以降、残業がほとんどできなくなりました。60代後半になる親の負担を考えると、頻繁に幼児2人を預かってもらうのが難しくなったのです。なので、毎日17時前に会社を出て子どもたちを迎えに行き、残った仕事は夜進めるというスタイルにシフト。 時短勤務にもかかわらず自宅で結構な仕事量をこなしていた私に、会社は「お給料据え置き」という対応をとってくださいました。つまり、時短の分を差し引かずに通常の額を毎月振り込んでくださったんです。これは本当にありがたかった。 それでも、幼児が2人いるので発熱や体調不良による園からの呼び出しも2倍。早々に退社してお迎えに行ったり、子どものインフルエンザで1週間休んだり。時短の措置だけではどうしようもないことも多く、突然の早退や有給に「しょうがないね」「お大事に」と声をかけてくれる上司や同僚がいる一方で、冷ややかな目も多少はあったと思います。肩身の狭い思いに耐えられるメンタルを持ち合わせていなかった私は、この頃から退職を考え始めました。
退職を考えるようになったのが、ちょうど40歳の頃。最初は転職も視野に入れていたのですが、小さい子どもがいるため時短でしか働けず、そうなるとお給料の面で条件に合わず、ある企業から年齢と時短とオーバースペック(スキルが高すぎてもダメみたい)を理由に断られたのを機に、プチッと吹っ切れました。これはもうフリーランスになるしか道はないと。 実は私、30歳を過ぎたあたりから「フリーになって自分の力を試してみたい」という思いがずっとあったんです。それまで踏み出せなかった理由は、やっぱり家族がいたから。安定志向が染みついてしまって、そういう思考に至らなかったんです。人生一度きりです。年齢的にもタイミング的にもいい機会かなと思って、少しずつ独立の準備を始めました。 2018年5月16日、「えんぴつ」という屋号で独立。フリーになってしばらくは、それまでお世話になっていたD社から業務委託という形で安定した報酬をいただきながら、少しずつ新たなクライアントさんとのつながりを増やしていくことができました。2回も産休育休を取って迷惑をかけたにも関わらず、最後まで私を評価してくださったD社の社長に改めてお礼を言いたいです。
新型コロナウイルスが流行り始めた2020年春、私はめでたく(?)定期収入のない“どフリーランス”になりました。多少の不安はあったけれど、なんせ楽観的な私。「なんとかなるやろ精神」で過ごしていたところ、ありがたいことに新たなお仕事がポツポツと増えだして、その一つひとつに全力で向き合う日々が続きました。 フリーになって改めて実感したのは「失敗したら後がない」ということ。何かあったら会社が守ってくれる会社員コピーライターとは、立場が全く違うのです。特に、新たなクライアントさんとの初めてのお仕事は絶対に失敗できません。どんなに小さなツールであっても、求められる以上のアウトプットを心がけています。喜んでもらえたら私も嬉しいし、「また一緒に仕事がしたい」と思っていただくことが自分のモチベーションにもつながるので。そして、リピートしていただけた時の喜びはもう格別。本当に小躍りしちゃいます! 結果的に、フリーランスな暮らしは完全に私にフィットしました。平日の昼間の空き時間を、家事や美容や子どものことに使えるし、疲れたらソファで休憩できるし。コロナ以降、クライアントさんとの打ち合わせがほぼオンラインになったのもプラスに。いい仕事をするために、自分でいい環境を作れるのがフリーランスのメリットだと思います。ヨボヨボになるまで大好きな仕事を続けたいので、これからもマイペースでがんばります。長々とお読みいただきありがとうございました!